映画「Manchester By the Sea」 にある無常

f:id:ringthebell:20170515092019j:plain

(huffingtonpost.comより)

 

Manchester By the Sea という映画を観た。

主演のCasey Affleck が主演男優賞をとったこともあり、注目を浴びた作品でもある。

知り合いの映画オタクのじいちゃんがこう言ってた。

「Beautuiful but very sad movie, nothing hopeful」

(美しいけどとても悲しい映画で全く希望がない)

観た方がいいよ、いや、観ない方がいいかな、と不思議な反応だった。

 

じいちゃんの言った通り、美しく物悲しい映画だった。

そして強く心に響いた。

今でもその余韻に浸っている。

 

ストーリーはこうである。Casey Affleck は配管修理みたいな仕事をしていて、浮かばれない人生を送っている。自ら引き起こした火災事故で最愛の子供を亡くし、愛し合ったまま奥さんと別れた。このハンサムな配管工は、不思議な色気を放ち、女性から言い寄られたりもするが興味なし。ちゃらちゃらした周りの成功者を横目に見ながら、ひたすらストイックに不器用に生きる。愛情深い兄を病気で亡くし、その子供の保護者になるという遺言を受け、自分の適性や葛藤に悩む。その子供はガールフレンドが複数と器用に生きてきた子なのだが、心の脆さを持っている。

ハッピーエンドを期待する視聴者をこの映画は見事に裏切り、Casey Affleck は子供の保護者にはならないことを決意して、Manchester By the Seaを後にする。二人の共通の趣味であるfishingをしているシーンで映画は終わる。

 

この映画はとても日本映画に近い匂いを持っていると思った。この全体を流れる穏やかさや変わらぬ風景の美しさ。中途半端な結末や諦めにも似た荒涼さなどがそうだ。悲しいうよりは無常という言葉に近い感じがする。

 

怒りや苦しみを耐えに耐えるCasey Affleckの表現力は本当に見事だった。CaseyはBen Affleckの弟である。 自身もアルコール中毒だったらしく、高い学歴や才能、見事なルックスを持ちながら、家族を得た後、挫折した。確かお父さんもアル中だったらしく、どうしても拭えない体に染み付いた悲しい記憶というのを持っている人なんだと思う。それがスクリーンでリアルに感じられた。それが観る人の心に響くのだろう。

 

この映画は長年の友人であるMat Damon がこの兄弟のために作ったのだと聞く。Mat Damon という人は家庭や仕事で成功しているらしい。幸せな家庭で育った人なんだろうか。顔だけ見るとこの人の方がよっぽど悪そうな気がするが、人間わからないものだ。